各位
新解体 第003号(2017.06)
総務委員会
解体通信
協会の定時総会が無事終わりました。今年の予算は緊縮傾向。「身の丈」に合った、事業
を行なう為、総務情報委員会、委員長会、理事会で収支の内容を根本的に見直した結果
であります。より手弁当での運営が基本となります。
前回、建設業法のポイントを記しましたが、今回は少し踏み込んで平成26年10月に国土
交通省土地・建設産業局建設業課より通達された、建設業法令遵守ガイドライン(第4版)
について関連する事項を見ていきましょう。
1.見積条件の提示
下請契約の具体的内容、書面の提示並びに作業内容を明確にする、そして予定価格の
額に応じた期間を設ける・・・会社業務で見積書の作成をしている方はわかると思いますが
見積書、その方式は各社独自でいいんです。その会社の姿勢が表れますから。
額に応じた見積期間は、最短で
・工事1件の予定価格が500万円未満・・1日以上
・工事1件の予定価格が500万円以上5,000万円未満・・10日以上
・工事1件の予定価格が5,000万円以上・・15日以上
但し、上記期間は、下請負人に対する契約内容の提示から当該契約の締結までの間に
設けなければならない期間であり、500万円以上5,000万円未満工事では、例えば、6月
1日に契約内容を提示した場合、6月12日に以降に契約の締結をしなければならない。
やむを得ない場合は、5日間に限り短縮することができる。知ってましたか?
2.不当に低い請負代金
しかしながら、見積書を提出して値切られても施工するのが一般的ではありますが、あま
りに低価格だと違反行為になる恐れもあります。以下、事例を挙げます。
・元請負人が自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行なうこ
となく、見積金額を大幅に下回る額で契約を締結した場合
・元請負人が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱い
をする可能性がある旨を示唆して、従来取引の価格を大幅に下回る額で契約
を締結した場合
・元請負人が、下請金額の増額に応じることなく、下請負人に対し追加工事を
させた場合
・元請負人が、契約後に取り決めた代金を一方的に減額した場合
「不当に低い請負代金の禁止」とは注文者が『自己の取引上の地位を不当利用』して、
その注文した工事を施工する為に『通常必要と認められる原価』に満たない金額で契約
することを禁止するものである。と業法では定義している。
『自己の取引上の地位を不当利用』・・取引上の優越な地位は元下間の取引依存度
『通常必要と認められる原価』・・一般的に必要と認められる価格、地域同種工事の実例
その他、以下の条文があります。
3.指値発注
先の事例に加え、
・元請負人が下請負人に対して、複数の下請負人から提出された見積金額
のうち最も低い金額を一方的に契約金額として下請契約を締結した場合
・元請負人が、下請負人が見積を行なう為の期間を設けることなく、自らの
予算額を下請負人に提示し、下請契約的決の判断をその場で行なわせ、
その額で下請契約を締結した場合
・元下間で請負代金の額に対する合意が得られていない段階で、下請負人
に工事を着手させ、工事の施工途中又は工事終了後に協議に応じることなく
代金の額を一方的に決定し、下請契約を締結した場合
いずれの場合も過去に経験があるのではないだろうか。元請負人が契約額を提示する
場合には、その額の積算根拠を明らかにして下請負人と十分に協議をすることが大事。
見積書に記載する、「法定福利費」、「労働災害防止対策」等の経費もあることなので
会社で働く社員の為にも最低でも『通常必要と認められる原価』を確保するのが事業主
の責務である。社員あっての会社、その会社が会員となる協会は会員あっての協会で
あることは言うまでもありません。
4.不当な資材等の購入強制
『自己の取引上の地位を不当利用』により、元請負人が、下請負人を経済的に不当に
圧迫するような取引等を強いることは法令違反である。
・契約の締結後に、元請負人が下請負人に対し、工事に使用する資材又は
機械器具等を指定、或いはその購入先を指定、又は解体工事の発生材の
運搬、処分業者を指定した結果、下請負人が予定していた予算より高価な
取引をしなくてなならなくなった場合
・契約の締結後、元請負人が指定した資材等を購入させたことにより、既に
購入していた資材等を返却する等、金銭面及び信用面における損害が発生
し、その結果、従来から継続的取引関係にあった業者との関係が悪化した
場合
元請負人が使用資材等の指定を行なう場合は、あらかじめ見積条件としてそれらの項目
を提示する必要がある。
5.やり直し工事
元請負人が、元下間の責任及び費用負担を明確にしないまま、やり直し工事を下請負人
に行なわせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合は、業法上違反となる恐れ
があります。これも往々にして現場にはあることですね。
・やり直し工事を下請負人に依頼する場合は、当該やり直し(手戻り)が下請
負人の責めに帰すべきを除き、その費用は元請負人が負担する
・下請負人の責めに帰さないやり直し工事を依頼する場合は、工事契約の
変更が必要
・やり直し工事の費用負担が下請負人への一方的な場合は業法違反の恐れ
・下請負人の責めに帰すべき理由がある場合とは、その施工が契約書面に
明示された内容と異なる場合又はその施工に瑕疵等がある場合
下請負人の責めに帰す場合でも以下においては、元請負人に負担義務がある。
・下請負人から施工内容等を明確にするよう求めがあったにもかかわらず、
元請負人が正当な理由無く施工内容等を明確にせず、継続して作業を行な
わせ、その後、それが契約内容と異なった場合
・施工内容について下請負人が確認を求め、元請負人が了承した内容に基
づき下請負人が施工したにもかかわらず、それが契約内容と異なった場合
6.赤伝処理
赤伝処理を行なう場合は、元下間双方の協議・合意が必要であるが、その内容を見積
条件・契約書面に明示することが第一条件となる。適正な手続きを経ない赤伝処理は、
業法上違反となる恐れがある。また、合意のもとの処理でも下請負人の過剰負担とならな
いようにするよう配慮義務がある。赤伝処理とは、元請負人が、
・一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用
・下請代金の支払に関して発生する諸費用(振込手数料等)
・工事の施工に伴い、副次的に発生する発生材の処理費用
・上記以外の諸費用(駐車場代、弁当ごみ等の処理費用、安全協力会費等)
を工事代金の支払時に差し引く(相殺する)行為
元請負人は、赤伝処理を行なうに当たっては、差引額の算出根拠、使途等を明らかに
し、安全協力費については工事竣工後、当該費用の収支を開示するなど透明性、公平性
を確保する必要があり、その負担が下請負人に過剰とならないように努めなければならな
いし、義務の対象とならないものでも極力、書面化して相互に取り交わすことが肝要である。
7.工期
工期に変更が生じた場合には、変更契約をすることが必要であり、工期延長、短縮によ
る費用負担を下請負人に課すのは法令違反となる恐れがある。
・元請負人の施工管理不十分等で下請負人の責めに帰すべき理由がないに
もかかわらず、工事の遅れが生じ、工期短縮等で発生した費用増加について
下請負人との協議を行なうことなく、一方的に下請負人に負担させた場合
・前文同理由により、工期が不足し、完成工期に間に合わないとして元請負
人が下請負人と協議することなく、他の下請負人と工事契約、又は元請負
人自らの労働者手配の費用を一方的に下請負人に負担させた場合
・元請負人の都合により、工事が一時中断し、工期延長した場合でその間
も元請負人の指示により、下請負人が機器類を現場待機させ、又は労働者
等を確保していたにもかかわらず、伴う増加費用を一方的に下請負人に負担
させた場合
8.支払保留
元請負人は、注文者から支払を受けた日から、工事契約に基づく相当額を下請負人に
1ヶ月以内でかつ、出来る限り短い期間内に支払う。以下は、業法上違反の恐れあり。
・長期間に渡り、保留金として代金の一部を支払わない場合
・工事全体が終了しないことを理由に代金の一部を支払わない場合
・工事が終了したにもかかわらず、他の工事まで保留金を持ち越した場合
9.長期手形
特定建設業者である元請負人が、手形期間が120日を超える手形により、下請代金を
支払った場合、業法上違反となる恐れがある。
・手形期日が120日を超える場合、「割引を受けることが困難である交付」と
認められる場合がある
・元請負人が特定か一般かを問わず、下請代金を支払う場合、手形期間を
120日を超えないようにすることが望ましい
10.社会保険・労働保険
最近話題になっている、「法定福利費」について触れたいと思います。これは業者が義
務的に負担しなければならない制度である。
社会保険; 健康保険、厚生年金保険・・法人は全て、個人は常時5人以上雇用
労働保険; 災害関係の労働保険、雇用関係の雇用保険・・法人、個人にかかわらず、
労働者1人でも雇用する限り、加入義務
法定福利費は、『通常必要と認められる原価』に含まれるもので、見積書作成時、必要
経費として計上しなければならない。その金額は、労働者個別に相当額として明示する。
元請負人は、下請負人からの法定福利費相当額を含む見積書を一方的に削減したり、
法定福利費を含めない金額で工事契約を締結し、結果、『通常必要と認められる原価』
に満たな井金額となる場合は、当該元下間の取引依存度等によっては、不当に低い請負
代金の禁止に違反する恐れがある。
また、法的に義務付けられている、社会保険・労働保険の未加入業者は、その情状によ
っては、「建設業者として不適当」という烙印を押されることを覚悟しなければならない。
以上のように建設業法一つとっても遵守しなければならない事項がたくさんあり、無知で
は済まれません。それぞれの会社は、営利目的であり、末永く会社存続をを目指している
が、それには法令遵守が基本であることは言うまでもないでしょう。
元下間の取引依存でも、名義人(一次下請)として助け、助けられる関係の構築を保持
する為にも法令遵守が第一条件となり、工事の安全、品質、工程管理等の施工管理の徹
底を図ることが、第二の条件であります。そして原価の追求がそれに続くのが本来の姿で
あることが望ましいのですが・・・